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大阪高等裁判所 昭和38年(ネ)475号 判決 1964年5月13日

控訴人 若松フミ 外六名

被控訴人 国

訴訟代理人 水野祐一 外三名

主文

本件控訴を棄却する。

附帯控訴により原判決を次のとおり変更する。

控訴人(附帯被控訴人)若松フミは被控訴人(附帯控訴人)に対し金一九四、五四四円及びこれに対する昭和三四年四月二六日から右完済まで年六分の割合による金銭を支払え。

右若松フミを除くその余の控訴人(附帯被控訴人)等は各自被控訴人(附帯控訴人)に対し金六四、八四八円及びこれに対する昭和三四年四月二六日から右完済まで年六分の割合による金銭を支払え。

被控訴人(附帯控訴人)のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも控訴人(附帯被控訴人)等の負担とする。

この判決中被控訴人勝訴の部分は、担保として、控訴人若松フミに対し金五万円、右控訴人を除くその余の控訴人等に対し各金二万円を供するときは、当該控訴人に対し仮に執行することができる。

事  実 <省略>

理由

当裁判所は、控訴人等の相殺の抗弁を採用せず、被控訴人の本訴請求の内主文第三、四項に相当する部分を正当とし、その余を失当とするものであるが、その理由は次のとおり付加訂正する外、原判決の理由に記載するところと同一であるから、これを引用する。

原判決八枚目裏五行目に「成立に争いのない甲第四号証の二、三、同第五号」とあるのを、「証人糀田博の証言によ力成立の認められる甲第四号証の二、三、成立に争いのない同第五号」と訂正する。

原判決九枚目裏一行目の「因なくして」の次に「悪意」を加入する。

当審証人西尾景雄の証言を考え合せると、原判決理由二の事実はますます明らかである。

控訴人等は、本件被差押債権は特定していない旨主張するが、原判決理由に示す如く、それは特定した債権であつて、若松勇三は、昭和三三年一一月一〇日右京税務署長に対し、債務承認書(甲第三号証)を差入れて、右債務の存在を確認し、かつ既に弁済期が到来していることを認めつつ、これが弁済の猶予を求めていたのであるから、控訴人等はこれらの事実に基き、時効のことも考えればよい訳であり、控訴人等の右主張は理由がない。

控訴人等は、若松勇三は山崎商会に対し、昭和二八年四月一日から昭和三五年九月宋日まで月七、〇〇〇円の割合による合計六三〇、〇〇〇円の未払給料または取締役としての報酬請求権をなしていた旨主張するが、甲第四号証の二、三の内右主張にそう部分は、後記各証拠と対比し直ちに採用し難く、他に右事実を認めるに足る証拠はない。かえつて、成立に争いのない甲第五、七、八号証、原審証人糀田博の証言により成立の認められる甲第四号証の一、二、三(第四号証の一の内公務署作成部分の成立は争いがない)に、右証人糀田博、原、当審証人西尾景雄(原審は第一、二回)の各証言を考え合せると株式会社山崎商会は、昭和二七年に従業員を全員解雇し、昭和二六年四月一日から昭和二七年三月三一日までの事業年度終了後休業状態となり、その後株主総会の決議によつて法律上解散するに至つた昭和二九年五月三一日までの間、何ら営業活動をしておらず、若松勇三は、右会社設立当初から右会社の代表取締役に重任し、右会社解散の時その清算人となり、昭和三五年一〇月七日死亡したものであるが、生前右会社に雇傭されたことはなく、右会社では、若松勇三に対し、取締役または清算人として受けるべき報酬を、定款にその額を定めることも、株主総会の決議で定めることもしておらず、かつ、前記のとおり右会社は、昭和二七年四月一日以降休業したので、同会社の業務は、本件被差押債権の取立以外には殆んどないという状態であり、解散後の清算事務としても、他にみるべき財産を保有していなかつた関係から、とりたてていう程のものはない状態であつて、若松勇三は、前記会社に対し、昭和二八年四月一日から昭和三五年九月末日まで月七、〇〇〇円の割合による給料または取締役としての報酬の請求権を有していないものと認められる。

取締役は、会社に対しては委任的関係に立つから(商法第二五四条第三項)、報酬が定款または株主総会の決議によつて定まらない限り、取締役は報酬を請求し得ない(民法第六四八条第一項)ものであり、裁判所が選任する以外の清算人の報酬も、取締役の報酬と同様、定款または総会の決議を以て定めるものであり(商法第四三〇条第二項、第二六九条)、その定めのない限り、これを請求し得ないと解すべきであるから、右に反する控訴人等の主張は採用しない。

よつて、その余の点について判断するまでもなく、控訴人等の相殺の抗弁は理由がない。

なお、かりに原審認定のように、未払給料債権合計九八、〇〇〇円の相殺が認められるとしても、被控訴人が差押えている債権総額は八五八、八八七円であつて、被控訴人が(イ)、(ロ)、(ハ)として支払を求めているのは、右債権の内五八三、六三四円を一応貸付金、立替金、仮払金の順序で支払を求めているに過ぎないものと解すべきであり、右九八、〇〇〇円を差引いても、差押債権の残額は七六〇、八八七円となり、右請求金額を優に越えているから控訴人等の抗弁は本訴請求の妨げとなるものではない。

よつて、被控訴人の取立請求にかかる五八三、六三四円につき、控訴人若松フミはその三分の一である一九四、五四四円、その余の控訴人等は、それぞれその三分の二の六分の一である六四、八四八円(いずれも一円未満切捨)及び右各金銭に対する差押通知の債務者若松勇三に到達した日の翌日であると認むべき昭和三四年四月二六日から右完済まで商法所定の年六分の割合による遅延損害金(悪意の受益者に対する会社の不当利得返還請求権には、商法所定の年六分の遅延損害金を付するべきものと解すべきである。)を支払う義務があり、被控訴人の請求は、右限度で正当であり、その余は失当として棄却すべきであるから、本件控訴は理由がなく、附帯控訴は一部理由があるから、控訴を棄却し、附帯控訴にもとずき原判決を変更することにし、民訴法第九六条、第九二条、第九三条、第一九六条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 岩口守夫 藤原啓一郎 岡部重信)

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